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神戸地方裁判所 昭和46年(む)500号 決定

被疑者 大川公喜

決  定

(被疑者氏名略)

右の者にかかる検察官の接見指定に関する処分に対し、弁護人分銅一臣から処分の取消変更の請求があつたから、次のとおり決定する。

主文

本件請求を棄却する。

理由

本件請求の趣旨ならびに理由は、弁護人分銅一臣作成名義の準抗告申立書と題する書面に記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は要するに、神戸地方検察庁検察官が、昭和四六年七月三日弁護人分銅一臣に対して弁護人は神戸地方検察庁に赴いて検察官の接見指定書を受け取り、これを持参しない限り弁護人と被疑者との接見を拒否する旨の処分をなしたことを前提とし、その違法を主張するので、本件記録、被疑者に対する証人威迫事件捜査記録を精査し、当裁判所の事実取調の結果を参酌すれば次の事実を認めることができる。すなわち被疑者に対し昭和四六年七月三日神戸地方裁判所裁判官から証人威迫被疑事実について勾留状が発付され、同時に接見禁止処分がなされ被疑者は代用監獄長田警察署に勾留されたこと、神戸地方検察庁検察官は接見に関する指定書(通常一般的指定書という)を発しその謄本各一通を被疑者ならびに長田警察署長に交付したこと、弁護人は同日午後〇時過頃長田警察署において被疑者に接見しようとしたところ同署員から被疑者は接見禁止処分をうけており検察官の指定書(以下個別的指定書という)がなければ接見できないといわれ、同署から電話で検察官に対し接見指定を口頭でなされたいと接衝したこと、検察官は接見には個別的指定書を要すべく、直ちに来庁のうえこれが交付をうけて接見すべき旨回答し、弁護人のための個別的指定書を作成して同日午後五時まで在庁待機したが、弁護人は検察庁に赴くことなく終つたこと、従来実務上の慣行として本件弁護人も含め一般に個別指定書の交付が行われそれに従つて接見が行われていること、が認められる。右の事実に照らすと、いまだ検察官において所論のように弁護人に対し接見拒否の処分をなしたとはとうてい認め難く所論はまずその前提において失当というほかはない。所論は検察官の右回答は弁護人に個別的指定書の受領を強要するものにほかならず、その受領なくしては、接見をさせないことに帰着するから、接見拒否の処分にほかならないというのであるが、個別的指定書交付の目的は検察官が刑事訴訟法三九条三項に基いて弁護人の被疑者に対する接見について日時場所時間を指定したことを明確にし一面において弁護人の接見を容易ならしめ、他面において、監獄の長に対し、接見する者の特定ならびに接見の時間的限界を明示し、もつて監獄の長の職務の執行を適正ならしめかつ接見禁止処分の実効を確保せんとするにあると考えられ、一応合理的理由あるものというべく、これが受領を弁護人に要請することは指定権者たる検察官の処置としてあえて不当ということはできず、訴訟関係人としての弁護人はこれに応えて個別的指定書を受領して接見することこそ望ましけれ、弁護人において検察庁に出向いてこれが交付をうける手数を要することは事実であろうけれども特段の事情がない限りかかる手数は通常の弁護活動に伴う当然の負担として甘受すべく、いうなれば個別的指定書の受領の如きは事務手続レベルに於ける負担にすぎずこの僅かな負担を捉えしかもこれを履行する義務がないとして検察官の処置を目してあたかも弁護権の本質を侵害する違法の処分に帰着するように主張することは失当というほかはない。(もとより検察官の個別的指定において弁護人の権利を不当に侵害する指定がなされた場合はその個別的指定を違法として攻撃することができるが、本件においてはいまだ個別的指定を検察官がなすに至つておらず、また検察官が個別的指定を拒んでいるものでもない)したがつて所論のように検察官が違法の処分をしたとはとうてい認め難くむしろ弁護人が検察官から個別的指定書の交付をうけることによつて速やかに接見の目的を達し得たと考えられ所論は採用できない。その他の所論もまずその前提を認め難いこと右に説明したとおりであるから採用するに由がない。よつて刑事訴訟法四二六条一項四三二条により主文のとおり決定する。

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